古民家は、許可・届出のルートを正しくすすめば、民泊・一棟貸し宿泊施設として合法的に運営できます。ただし法的な選択肢が3つあり、どれを選ぶかで必要な費用・手続きが大きく変わります。
古民家を所有しているが活用方法がわからない、空き家のまま固定資産税や管理費だけが発生している——そういった状況に置かれているオーナーは増加中。一方で、地方移住ブームや非日常体験への需要の高まりを背景に、古民家を活用した宿泊施設は注目を集めています。
この記事では、以下の3点を中心に解説します。
- 古民家で民泊・宿泊施設を開業する際の法的選択肢と手続き
- リノベーション費用の目安と活用できる補助金・支援制度
- 収益を上げるためのポイントとよくある失敗パターン
古民家を活用した民泊を検討している方は、民泊開業の全体フローもあわせてご参照ください。
古民家で民泊・宿泊施設を開業する3つの法的選択肢

古民家を宿泊施設として運営するには3つの法的なルートがあり、どれを選ぶかによって手続きの複雑さや初期費用、運営の自由度が異なります。
①民泊(住宅宿泊事業法)— 届出制・年間180日以内
住宅宿泊事業法に基づく民泊は、比較的手続きが簡単なルートです。都道府県知事への届出で始めることが可能で、多くの場合で初期費用面も旅館業法(簡易宿所営業)に基づく民泊より軽くなります。
その一方で、注意点として年間180日という営業日数の上限があります。
古民家の場合、断熱性・設備の不足が課題になりやすいですが、民泊としての構造設備基準は旅館業法ほど厳しくなく、まず試してみる段階において現実的な選択肢です。ただし、住宅宿泊事業法による民泊であっても、建物の用途・面積・利用形態によっては消防法令への適合確認や消防設備の整備が必要になるため、届出前に管轄消防署への事前相談をおすすめします。
なお、住宅宿泊事業法の届出対象は「住宅」に該当する建物に限られます(同法第2条第1項)。長期間にわたって空き家状態だった古民家が「住宅」の定義を満たすかどうかは、管轄の都道府県担当窓口に事前確認することをおすすめします。
②旅館業法(簡易宿所営業)— 許可制・年間営業日数の制限なし
通年稼働を目指す場合は、旅館業法(簡易宿所営業)の許可取得が選択肢になります。許可を受ければ365日営業できるため、180日の制限がなくなります。
古民家でこのルートを選ぶ際の最大のハードルは、消防設備基準です。許可申請には管轄の消防署が発行する「消防法令適合通知書」が必要で、基準を満たす消防設備の整備が求められます。築古・木造の古民家では、これらを基準に合わせるための追加工事費が大きくなりやすくコストがかさむ場合があるため、事前の費用計画がカギになります。
一棟貸し・貸別荘として旅館業法で運営するノウハウは旅館業法で始める貸別荘経営も参考になります。旅館業法の許可については、旅館業法ガイドでまとめています。
③特区民泊(国家戦略特区)— エリア限定
国家戦略特別区域法に基づく制度で、指定された特区エリア内に限り認定を受けて営業できます。最低宿泊日数が2泊3日以上という制限があります。
もともと活用例が多かった大阪市では、2026年5月29日をもって特区民泊の新規受付を終了となりました。古民家や空き家が多く存在する、農村・山村エリアは民泊特区の対象外がほとんどで、古民家での活用余地は限られています。特区民泊の対象エリアと条件については特区民泊の対象エリアと要件で確認してください。
3つのルートの比較
| ルート | 手続き | 年間営業日数 | 古民家での主な課題 |
|---|---|---|---|
| 民泊(住宅宿泊事業法) | 届出制 | 180日以内 | 断熱・設備の整備 |
| 旅館業法(簡易宿所) | 許可制 | 年間営業日数の上限なし | 消防設備工事コスト |
| 特区民泊 | 認定制(エリア限定) | 年間営業日数の上限なし ※最低宿泊日数は原則2泊3日以上 | 農村・山村エリアはほぼ対象外 |
古民家で宿泊施設を開業するなら、まずは手続きが軽い住宅宿泊事業法による民泊が現実的な入口です。将来的に通年稼働を目指す場合は、旅館業法(簡易宿所)への移行、または最初から許可取得を検討する流れがおすすめです。
古民家民泊の費用とリノベーション相場

延べ床面積200㎡超の古民家は事前確認が必要です。古民家を宿泊施設に用途変更する場合、その変更する部分の延べ床面積が200㎡を超えると建築確認申請が必要になる場合があります(建築基準法第87条)。大型の古民家では該当するケースがあるため、リフォーム設計・工事着手前に建築士や建築指導の担当窓口に確認してください。
古民家を宿泊施設に転用する際のコストは、物件の状態・規模・整備の水準によって大きな幅があります。以下にリノベーション費用を中心に、目安をまとめました。なお物件取得にかかる費用(購入・賃借)は別途発生します。
物件の状態別リノベーション費用の目安
| 物件の状態 | リノベーション費用の目安 |
|---|---|
| 比較的状態の良い物件(築50年以内・躯体が健全) | 300万〜700万円 |
| 老朽化が進んだ物件(屋根・基礎の補修が必要) | 700万〜1,500万円以上 |
| 躯体の損傷が大きい物件 | 修繕費が物件取得費を上回るケースも |
※躯体:建物の骨格部分のこと。建物を支える基礎や柱などの構造部分を指します。
旅館業法(簡易宿所)の許可を目指す場合は、これに消防設備工事が加わります。
| 費用項目 | 目安 |
|---|---|
| 消防設備工事(自動火災報知設備・誘導灯・消火器等) | 50万〜300万円(建物の規模・状態による) |
| 旅館業許可申請(行政書士依頼) | 10万〜30万円程度 |
| 什器・寝具・アメニティ | 50万〜150万円 |
| 写真撮影・OTA掲載準備 | 5万〜20万円 |
注意が必要なのは、古民家の場合は工事に着手して初めてわかる不具合(シロアリ被害・腐った柱・基礎のひびなど)が発見されることがある点です。見積もりに全体費用の10〜20%程度の予備費を組み込んでおくことや、物件購入前に建築士による簡易診断を受けることをおすすめします。
民泊リノベーションにかかる費用の相場は民泊リノベーションにかかる費用の相場でもまとめています。
古民家民泊に使える補助金・支援制度
費用が大きくなりやすい古民家の再生には、国や自治体の補助金・支援制度を活用できる場合があります。
空き家活用に関する補助金(自治体経由)
国土交通省の施策として、空き家の活用・除却を支援する補助制度があり、自治体を通じて運用されています。補助対象・補助率・上限額は自治体によって異なるため、物件の所在地を管轄する市区町村の担当窓口に、民泊・宿泊施設化が補助の対象になるかを含めて問い合わせるのが確実です。
空き家活用補助金の種類と申請方法の詳細は空き家活用補助金の種類と申請方法でまとめています。
農泊推進事業(農林水産省)
農山漁村地域での宿泊(農泊)を推進するため、農林水産省が「農泊推進事業」として補助を実施しています。農泊地域づくりの拠点整備や農泊推進活動への支援が対象で、市区町村や農泊協議会を通じた申請形式が多くなっています。
古民家を農泊の宿泊拠点として整備する場合、この補助事業の対象になる可能性があります。採択数・補助額は年度によって変わるため、最新の募集情報は農林水産省の公式サイトで確認してください。地域の農業委員会・農協・農泊協議会が窓口になるケースもあります。
補助金活用のタイミングに注意
多くの補助金は工事着工前の申請が要件です。「リノベーションが終わってから補助金を探す」では間に合いません。計画段階で補助金情報を収集し、申請受付期間に合わせてスケジュールを組みましょう。
古民家民泊で収益を上げるためのポイント

古民家ならではの差別化強みを磨く
囲炉裏・太い梁・土間・縁側・茅葺き屋根——
これらは一般的なホテルでは味わいにくい、古民家ならではの魅力です。「築100年の古民家を貸し切って過ごす体験」は、それ自体が大きな価値になるため、古民家の「らしさ」を残した空間づくりが高単価設定につながります。
薪ストーブ・露天風呂・農体験・地元食材セットなど、立地条件を活かした設備や体験の追加は単価引き上げに直結します。古民家の「不便さ」でさえ、設計次第では体験の一部として魅力に変えることも可能です。
稼働率と単価のバランス
地方の古民家では、都市部の民泊のように毎日予約が入ることは期待しにくいです。年間稼働率30〜50%を目安に、1泊単価を高めに設定する戦略が現実的です。週末・連休・シーズン(桜・紅葉・夏休み等)に集中して予約を獲得し、閑散期は連泊プランで稼働を補う形が安定しやすいです。
稼働率と収益に関する目安は民泊の収益シミュレーションでまとめています。
掲載プラットフォームの選択
大手OTAだけに掲載すると、古民家の特徴が「一棟貸しを探しているゲスト」に伝わりにくいことがあります。一棟貸し・古民家に特化したプラットフォームを選ぶことで、物件の魅力を求めている層に直接リーチできます。
物件をすでにお持ちの方は、タビルモへの掲載を選択肢の一つとしてご検討ください。タビルモは一棟貸し専門のOTAで、古民家・貸別荘・離島の宿など非日常体験を提供する施設を対象としています。旅館業法(簡易宿所)許可施設・民泊新法(住宅宿泊事業法)届出施設どちらも掲載できます。
古民家民泊でよくある失敗パターンと対策

費用の見積もり・集客・法令対応のそれぞれに、古民家特有の落とし穴があります。事前に把握しておくべき5つのパターンを解説します。
失敗①:消防設備コストの想定不足
旅館業法の許可取得を目指す場合、消防設備の整備は避けられません。古い木造建築では基準を満たすための追加工事が大がかりになることがあり、物件を購入したあとに想定外の追加工事費が発生するケースもあります。
物件取得前に管轄の消防署に事前相談し、必要な設備と概算費用を把握してから意思決定することもおすすめです。
失敗②:リノベーション費用の超過
築古物件は「解体してみないとわからない」不具合が出やすいです。シロアリ被害・腐った柱・基礎のひびなど、外観では判断できない問題が工事中に発覚すると修繕費がかさみます。
見積もり段階で予備費として全体費用の10〜20%を別枠で確保し、物件購入前に建築士の簡易診断を受けることが、費用の超過を防ぐ現実的な対策です。
失敗③:集客がうまくいかず挫折する
開業直後は口コミのない状態からのスタートです。Airbnbのような大手OTAでは、評価のない施設は検索結果で目立ちにくい位置に置かれます。
口コミを蓄積する期間も、計画段階で想定しておきましょう。InstagramなどSNSでの発信や、地域の観光協会・道の駅との連携、一棟貸し専門OTAの活用も早期認知に効果的です。
失敗④:近隣・地域住民との関係構築を後回しにする
地方の古民家周辺では、ゲストの騒音・車の出入り・ゴミの扱いが近隣住民に大きな影響を与えることがあります。開業前の近隣挨拶と説明、ゲストへのルール案内(深夜の外出・騒音・ゴミ出し等)の徹底が、長期的に運営を続けるための基盤です。
地域の農泊協議会や観光協会と連携することで、地域のコミュニティと良好な関係を保ちながら集客している古民家民泊オーナーも多くいます。
失敗⑤:宿泊者事故・第三者賠償のリスクを無保険で放置する
古民家は段差・低い梁・ぬれた石畳など、ゲストがけがをしやすい要因を抱えていることが多いです。一般的な個人賠償責任保険では宿泊業に起因する事故をカバーしないケースがあるため、施設賠償責任保険への加入を検討しましょう。
開業前に保険代理店で宿泊事業向けの補償内容を確認し、民泊・旅館業の運営も対象とする保険に加入してください。民泊保険の必要性と選び方の詳細は民泊運営での保険の必要性でまとめています。
古民家物件の探し方
空き家バンクの活用
多くの市区町村や民間企業が「空き家バンク」を運営しており、売却・賃貸に出されている空き家・古民家の情報を掲載しています。国土交通省が全国の空き家バンク情報をまとめた「空き家・空き地バンク総合情報ページ」の活用もおすすめです。
地域ごとに掲載物件・補助制度が異なるため、目標エリアを絞って複数の自治体バンクを比較するのが効率的です。物件のある地域への移住・定住を前提にする場合、自治体独自の補助制度が受けられるケースもあります。
古民家再生専門の仲介・コンサルティング
古民家再生に特化した仲介会社・工務店・設計事務所が、物件探しから改修・許可取得・開業まで一貫して支援するサービスも増えています。初めて古民家民泊に取り組む場合は、全体の流れを把握した専門家に相談する選択肢も検討しましょう。
空き家を活用したビジネスについては、空き家を活用した収益化事例でまとめています。
よくある質問
古民家でも、民泊の届出や旅館業の許可取得はできますか?
基本的には可能です。ただし、建物の状態・用途地域・消防設備の整備状況によって手続きの内容が変わる場合があります。住宅宿泊事業法は、届出制で要件が比較的緩やかです。旅館業法(簡易宿所営業)許可の取得を目指す場合は、消防設備の整備と保健所への申請が必要で、古民家では追加工事が必要になることが多いです。まず管轄の保健所・消防署への事前相談から始めることをおすすめします。
古民家民泊は180日ルールの対象になりますか?
住宅宿泊事業法に基づく民泊の場合は、年間180日以内の営業制限があります。旅館業法の許可を取得した場合は、この制限はなく365日営業できます。通年での稼働を目指す場合は、旅館業法の許可取得を検討しましょう。
古民家民泊の初期費用はどのくらいかかりますか?
物件の状態によりますが、リノベーション・消防設備・什器込みで数百万〜2,000万円程度が目安です。状態の良い物件ではリノベのみで300万〜700万円程度に収まるケースもありますが、老朽化が進んだ物件では修繕費が膨らみやすいため、購入前に建築士の簡易診断を受けることをおすすめします。
古民家民泊に使える補助金はありますか?
国土交通省の空き家対策補助金(自治体経由)・農林水産省の農泊推進事業・自治体独自の補助制度を活用できる場合があります。内容・対象・金額は年度や自治体によって変わるため、自治体の担当窓口に確認してください。工事着工前の申請が要件の補助金が多いため、計画段階での情報収集が必要です。
古民家民泊の年収・収益の目安は?
立地・設備・運営方法によって大きく変わりますが、1泊2万〜5万円・年間稼働率30〜50%を前提にすると年間売上は200万〜900万円程度が参考値です。手残りは売上の30〜50%程度が目安ですが、古民家はメンテナンス費用が発生しやすく、その分変動します。事業計画は稼働率30〜40%のベースラインから組むことをおすすめします。
次の記事では、貸別荘経営の成功のコツも紹介しています。
まとめ
古民家で民泊・宿泊施設を始めるには、法的ルートの選択(民泊新法か旅館業法か)が最初の分水嶺です。通年営業を目指すなら旅館業法の許可が必要です。また消防設備・リノベーション費用を含めた初期費用の試算は、物件取得前に行う必要があります。
古民家民泊は初期費用が大きくなりやすい分、補助金の活用と差別化戦略が収益化の鍵になります。古民家の唯一性「囲炉裏・太い梁・非日常感など」は、一般的な宿泊施設では出しにくい強みです。その強みを活かした高単価・厳選ゲスト向けの運営が、地方古民家民泊の勝ち筋のひとつといえます。
一棟貸しに特化したOTA「タビルモ」では、古民家・旅館業法許可施設・民泊新法届出施設のいずれも掲載対象です。タビルモへの掲載資料を請求し、自分の施設が登録対象かどうかを確認することから始めてみてください。