民泊には、一般に「家主居住型」と「家主不在型」の2タイプがあります。特に家主居住型の民泊は、消防設備の設置義務が緩和されるなどのメリットがある一方で、「住民票は移すべき?」「家族のプライバシーはどう守る?」といった実務的な悩みもつきものです。
本記事では、住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、2つの民泊タイプの違い、間取りの工夫、そして事業化への具体的な4ステップまでを徹底解説します。
家主居住型民泊・不在型民泊とは?知っておくべき基礎知識

住宅宿泊事業法(民泊新法)に「家主居住型」「家主不在型」という言葉そのものの定義はありませんが、「管理業務の委託が必要かどうか」を判断する基準として、家主の滞在要件が厳格に定められています。
そこでまずは、「家主居住型」と「家主不在型」の一般的な定義と、運用上のルールを正しく理解しましょう。ここを間違えると、意図せず違法営業となってしまうリスクがあります。
住宅宿泊事業法における「家主居住型」の定義
「家主居住型」の民泊は、住宅宿泊事業法上では「住宅宿泊事業者が居住しており、管理業務の委託が不要なケース」として規定されています。
一般的には、運営形態を指します。
生活の本拠であること
届出者が生活の中心として実際に使用している住宅であること。原則として住民票があることが前提となりますが、住民票があるだけでなく、勤務地や生活の痕跡などから「居住の実態」があることが必須条件です。家主が不在にならないこと
ゲストの宿泊期間中、原則として家主もその住宅内に宿泊・滞在していること。
ただし、日常生活に必要な買い物や短時間の外出(原則1〜2時間程度)による一時的な不在は認められます。管理業務を自ら行うこと
上記の条件を満たし、かつ貸し出す部屋の数が5室以下であれば、外部業者への委託義務が免除され、家主自身で衛生管理や安全確保を行うことができます。
最も重要なのは、「原則として事業主の住民票がその物件の住所にあること」です。住民票は「生活の本拠」を証明する第一の書類となります。
「一時的な不在」はどこまで許される?
「家主居住型なら、一歩も外に出てはいけないの?」という疑問については、「一時的な不在」であれば認められています。ただし、国土交通省のガイドラインに基づき、以下の条件を守る必要があります。
認められる外出:近所のスーパーへの買い物、子供の送迎、短時間の散歩など、日常生活に必要な行為。
時間の目安:原則として1時間程度(長くても2時間以内)で戻れる範囲。
必須条件:外出中も携帯電話などで連絡がつき、トラブル発生時に直ちに駆けつけられる体制であること。
住宅宿泊事業法における「家主不在型」の定義
対となる「家主不在型」とは、文字通り家主がその住宅に居住していない状態、あるいは家主が不在の状態で宿泊サービスを提供する形態を指します。
具体的には、以下のいずれかに当てはまる場合などが該当します。
生活の本拠ではない:空き家、別荘、投資用マンションなど、家主が日常的に住んでいない住宅を使用する場合。
同一敷地内だが別棟:家主が同じ敷地に住んでいても、「離れ」や「別棟」を宿泊施設とする場合(※生活機能が分断されており、目の届く範囲であっても不在型とみなされるケースが一般的です)。
長時間不在にする:家主が住んでいても、宿泊者の滞在中に旅行や仕事などで、規定された「一時的な不在」の範囲を超えて外出する場合。
最大の法的義務:管理業務の委託
家主不在型の最も重要なルールは、「国土交通大臣の登録を受けた『住宅宿泊管理業者』に、住宅宿泊管理業務のすべてを委託しなければならない」という点です。
家主の目が届かないため、プロの管理業者(民泊運営代行会社など)に、鍵の受け渡し、清掃、緊急対応、近隣対応などを任せることが法律で厳格に義務付けられています。
家主居住型 vs 不在型|徹底比較でわかる選び方

ご自身のライフスタイルにはどちらが合っているのか、表で整理して比較してみましょう。
| 比較項目 | 家主居住型(ホームステイ型) | 家主不在型(貸切型) |
| 居住実態 | 家主が同居する | 家主は住まない |
| 管理業務 | 家主自身が行う(委託不要) | 管理業者への委託が必須 |
| 初期費用 | 自宅を使うため低い | 物件購入・賃貸費用がかかる |
| 運営コスト | 低い(委託費がかからない) | 高い(委託費がかかる) |
| ゲスト層 | 交流を求める旅行者が多い | プライベート重視の層が多い |
| リスク | プライバシーの確保、騒音 | 近隣トラブル、緊急対応の遅れ |
家主居住型を選ぶべき人
初期費用・ランニングコストを抑えて小さく始めたい方
国際交流や、ゲストへのおもてなしを楽しみたい方
主婦(夫)やリタイア後など、家にいる時間が長い方
家主不在型を選ぶべき人
本業が忙しく、運営に時間を割けない方
自身のプライベート空間を完全に守りたい方
複数物件を運用して、事業規模を拡大したい方
【要件①】住民票問題と「上乗せ条例」の壁
家主居住型を始める上で避けて通れないのが「住民票」と「地域ごとの独自ルール」です。
住民票は必ず移す必要があるのか?
結論から言えば、必要です。
行政は「住民票がある場所=生活の本拠」と判断します。別荘などで週末だけ居住し、そこで民泊を行う場合は、生活の本拠ではないため「家主不在型」としての届出が必要です。
家族の住民票:原則として、同居家族全員の住民票がそこにあることが望ましいです。単身赴任や就学などの理由で一部の家族が別の場所に住民票を置く場合は、合理的な説明資料を求められることがあります。
見落としがちな「上乗せ条例」
国の法律(民泊新法)では「年間180日まで」営業可能ですが、自治体によっては独自の上乗せ条例でさらに厳しく規制している場合があります。
例:住居専用地域では「金・土・日の週末しか営業できない」など。
対策:物件の契約やリフォームをする前に、必ず管轄の保健所で「この住所で家主居住型民泊を通年営業できるか」を確認してください。
【要件②】家族と共存する「間取り」と設備ルール
ここではホストとゲストよる、設備の共用について解説します。
家主居住型の「間取り」の基本
家主居住型民泊として届け出が受理されるためには、間取りが特定の法的な要件を満たす必要があります。最も重要な点は、宿泊者の使用に供する部分、つまり客室と、家主が生活する部分が明確に区別されていることが必須ではないという点です。
家主居住型では、キッチン・風呂・トイレ・洗面所をゲストと家主が共用することが認められています。つまり、ゲスト専用の設備を新たに作る必要はありません(ただし、存在する設備が使える状態であることは必須です)。
プライバシーを守るための区分け
設備要件以上に重要なのが、お互いのストレスを減らす工夫です。
玄関:可能であればゲスト用と家族用で履物を置くスペースを分ける。
水回り:入浴時間を予約制にする、または「使用中」プレートをドアにかける運用ルールを作る。
簡易錠:客室(寝室)には、内側から鍵がかかる簡易的な錠を設置する(プライバシー保護のため推奨されます)。
これらの工夫は、大規模な改築費用をかけずに、ご家族とゲスト双方の満足度を高めるために非常に有効です。
事業化への4ステップ概要

実際にオープンするまでの流れを整理しました。
【Step1】事前相談と消防設備の設置
リフォーム等の前に、条例確認のため「保健所」へ、消防法令適合通知書の取得のため「消防署」へ、必ず事前相談に行きましょう。
特に消防設備(自動火災報知設備、誘導灯、消火器など)は、設置に数十万円かかる場合があるため、初期見積もりが重要です。
【Step2】届出書類の作成・提出
「民泊制度運営システム」を使ってオンラインで申請するのがスムーズです。
必要書類:住民票の写し、住宅の登記事項証明書、住宅の図面、消防法令適合通知書、誓約書など。
【Step3】サイト登録・ハウスルール作成
届出番号が発行されたら、Airbnbやタビルモなどの予約サイト(OTA)へ登録します。
ハウスルール:騒音トラブル防止のため、「夜21時以降はお静かに」「ゴミの分別方法」などを多言語で記載したブックを作成し、室内に設置しましょう。
【Step4】運営開始(衛生管理・定期報告)
衛生管理:シーツやタオルは清潔なものを提供し、定期的な清掃を行います。
定期報告:2ヶ月に1回、宿泊日数や宿泊者数を都道府県知事へ報告する義務があります。
家主居住型民泊を始める際の疑問点を解消

住宅ローンが残っていても民泊はできますか?
非常に注意が必要です。
一般的な「住宅ローン」は、本人や家族が住むための融資(居住用)であり、事業利用は契約違反となる可能性が高いです。無断で民泊を行うと、最悪の場合、一括返済を求められます。
対策:必ず銀行に事前相談してください。「床面積の半分以下ならOK」とする銀行もあれば、事業用ローン(アパートローン等)への借り換えを求められる銀行もあります。
マンション管理規約はどう確認すればいい?
管理規約で「民泊禁止」となっていないか確認が必要です。
標準管理規約では民泊を「可」とするか「不可」とするか明記することになっています。「不可」の場合は当然できませんし、記載がない場合も管理組合の決議が必要になることがほとんどです。
副業でも確定申告は必要?
年間20万円以上の所得があれば必要です。
民泊の売上から経費(手数料、光熱費の按分、消耗品費など)を引いた「所得」が20万円を超える場合、確定申告が必要です。赤字であっても、住民税の申告は必要になります。
まとめ:正しい知識で、安心の民泊ライフを
家主居住型民泊は、自宅にいながら世界中の旅行者とつながれる素晴らしい体験です。しかし、「住宅ローン」「住民票」「消防設備」といったハードルを軽視して始めると、後々大きなトラブルになりかねません。
住民票を置き、生活の拠点とする。
上乗せ条例と消防設備を事前に確認する。
銀行(ローン)と管理組合の許可を得る。
この3つをクリアできれば、成功への道は大きく開けます。まずは管轄の窓口への事前相談からスタートしてみましょう。

