民泊を安全・合法に運営するためには、物件確保と同じくらい重要なステップがあります。それが「消防法」への適合です。
「法律用語が難しくてよく分からない」「自分の物件にはどの設備が必要なの?」と不安を感じるオーナー様も多いはずです。しかし、家主の居住有無や面積などの条件を整理すれば、やるべきことは明確になります。
本記事では、2025年12月時点の最新情報に基づき、民泊運営に必須となる消防法の基礎知識から、「用途判定」の基準、管轄消防署への「事前相談」、そして「消防法令適合通知書」を取得するまでのフローを解説します。
はじめに:なぜ民泊で「消防法」が最重要なのか
住宅宿泊事業法(民泊新法)や旅館業法に基づく許可・届出を行う際、原則として提出を求められるのが「消防法令適合通知書」です。これは、「この建物は消防法に適合しており、安全です」ということを消防署が証明する書類です。
もし適切な消防設備がなく、万が一火災が起きた場合、宿泊者の命に関わるだけでなく、オーナーは「業務上過失致死傷罪」などの重大な法的責任を問われます。
特に近年は、「家主居住型」を偽装した運営への取り締まりも強化されています。本記事を読み進めることで、ご自身の物件がどの区分に該当するかを正しく判断し、コンプライアンス遵守の上で開業準備を進められるようになります。
あなたの民泊は「住宅」か「宿泊施設」か?

消防法において、民泊施設は大きく「住宅扱い」か「宿泊施設扱い(特定防火対象物)」かの2つに分類されます。この判定によって、設置すべき設備や義務の重さがガラリと変わります。
判定のカギとなるのは、以下の2つのポイントです。
用途判定の2大要素
- 家主の居住実態:家主が同居し、宿泊中の管理(避難誘導等)を行えるか。
※名義上の居住ではなく、実態としての居住・在館が厳しく問われます。 - 宿泊室の床面積:宿泊者が就寝する部屋の床面積合計が「50㎡」を超えるか。
用途区分と必要設備の早見表
ご自身の物件がどこに当てはまるか、以下の表で確認してみましょう。
| 用途区分 | 判定条件 | 主な必要設備・要件 |
|---|---|---|
| 住宅扱い (規制が緩やか) | 家主居住 かつ 宿泊室50㎡以下 | ・住宅用火災警報器(連動型推奨) ・消火器(一般的なもの) |
| 宿泊施設扱い (特定防火対象物) | 家主不在 または 宿泊室50㎡超 | ・自動火災報知設備 ・誘導灯 ・防炎物品(カーテン等) ・定期点検報告 |
用途区分については、建築基準ほうが大きく関わっています。詳しくはこちらの記事を確認してください。
➤【2025年最新】民泊の建築基準法で失敗しない!用途変更・規制緩和・違反回避のポイント
【重要】さらに注意すべき「3つの特殊条件」
基本の判定に加え、建物の構造や規模、そして「地域の条例」によっては追加の設備が必要になるケースがあります。以下の条件に当てはまる場合は特に注意が必要です。
- 延べ面積300㎡以上: 「特定小規模施設」の特例(簡易な無線式設備など)が使えず、本格的な配線工事が必要になる可能性が高いです。
- 地階・無窓階・3階以上: 避難が難しくなるため、誘導灯や自動火災報知設備の設置基準が厳しくなります。
- 地域の火災予防条例: 国の法律では「住宅用」で良くても、東京23区や大阪市、京都市などの条例により、宿泊施設と同等の設備や表示を求められる場合があります。
物件タイプ別チェックポイント

戸建てかマンションかによっても、見るべきポイントが異なります。
1. 戸建て住宅の場合
家主不在型(まるまる貸し)の場合、基本的には「宿泊施設(5項イ)」として扱われ、自動火災報知設備の設置が必須となります。
ただし、延べ面積が300㎡未満であれば、「特定小規模施設用自動火災報知設備」という、配線工事不要・無線式の簡易的な設備で済むケースがほとんどです。現在、多くの民泊施設がこの方式を採用し、導入コストを抑えています。
2. マンション・アパート(共同住宅)の場合
最も注意が必要なのがこのケースです。民泊を行う部屋(専有部分)だけでなく、建物全体(共用部)との兼ね合いが発生するためです。
- 複合用途の判定: 建物内に住居と宿泊施設が混在するため、「複合用途防火対象物(16項イ)」として扱われます。建物全体の延べ面積で規制が決まるため、小規模な部屋でも建物全体が大きい場合は、スプリンクラー等の要件が厳しくなることがあります。
- 管理組合との合意: 共用部の廊下やエントランスに設備を追加したり、避難経路図を掲示したりする場合は、管理組合の承認が不可欠です。
消防法令適合通知書を取得する4つのステップ

それでは、実際に通知書を取得し、民泊を開業するまでの具体的な実務フローを解説します。
法令遵守の最短ルートは「①事前相談 → ②工事・設置 → ③届出 → ④検査」です。
STEP1:管轄消防署への「事前相談」(最重要)
自己判断で設備を購入・工事するのは絶対にやめましょう。まずは物件を管轄する消防署の「予防課」に電話予約を入れ、図面を持って相談に行きます。
- 建物の平面図・間取り図(各階の部屋、窓の位置がわかるもの)
- 求積図・面積表(特に宿泊室の面積が50㎡前後なら必須)
- 物件の案内図(Googleマップ等でも可)
- 現況写真(外観、内観、既存の消防設備など)
- 運用計画のメモ(最大宿泊人数、家主がどこに常駐するか等)
この相談で、「必要な設備の確定」と「特定小規模施設用(簡易型)が使えるか」、そして「自治体独自の条例規制がないか」を必ず確認してください。
STEP2:消防設備の設置・工事
消防署の指示に基づき、機器を手配・設置します。
- DIYできるもの: 住宅用火災警報器(ネジ止め程度)、消火器の設置、避難経路図の作成・掲示など。
※住宅用警報器であっても、一部屋が感知すれば全室鳴動する「連動型」の設置を強く推奨します(義務化されている地域もあります)。 - プロに依頼すべきもの: 自動火災報知設備や誘導灯など。これらは電源工事を伴うことが多く、法令で「消防設備士(甲種4類など)」の国家資格が必要です。
STEP3:各種届出書の提出
工事が完了したら、消防署へ以下の書類を提出します。
- 消防用設備等設置届出書: 設備を設置しました、という報告。
- 防火対象物使用開始届出書: 建物を民泊として使い始めます、という届出。民泊開始(使用開始)の7日前までが提出期限です。
※これらの書類には、設置した設備の図面や試験結果報告書の添付が必要です。
STEP4:現地検査(立入検査)と交付
消防署の担当者が現地を訪問し、図面通りに設備があるか、正しく作動するかを検査します。
指摘事項がなければ、申請から数日〜1週間程度で「消防法令適合通知書」が交付されます。これを受け取って初めて、保健所や行政への民泊届出が可能になります。
運用フェーズ:開業後に必要な義務

適合通知書をもらって終わりではありません。開業後も以下の運用・管理義務が発生します。
- 1. 定期点検と報告
- 宿泊施設扱い(特定防火対象物)の場合、原則として年2回の機器点検(6ヶ月ごと)と、年1回の消防署への報告が義務付けられます。有資格者に依頼し、記録を残しましょう。
- 2. 防炎物品の使用
- カーテン、じゅうたん、布製ブラインド等(自治体によっては寝具類も)は、「防炎ラベル」がついたものを使用しなければなりません。ホームセンター等で購入する際も確認が必須です。
- 3. 掲示物の管理
- 客室のドア裏などに「避難経路図」を掲示します。インバウンド対応として、英語や中国語を併記した多言語対応が推奨されます。
民泊×消防法 よくある質問(FAQ)

現場でよくご相談いただく質問をまとめました。
Q. 消防設備の設置費用はどれくらいかかりますか?
A. 物件規模によりますが、戸建てで「特定小規模施設用自動火災報知設備(無線式)」が使える場合、機器代と工事費合わせて30万円〜50万円程度が目安となるケースが多いです。配線工事が不要な無線式を選定することで、大幅なコストダウンが可能です。
Q. 自分でネットで買った感知器を取り付けてもいいですか?
A. 「住宅用火災警報器(電池式など)」であればご自身での取り付けが可能です。しかし、「自動火災報知設備」や「誘導灯」などの電源工事や専門的な機能確認が必要な設備は、消防設備士の独占業務であり、無資格での施工・点検は消防法違反となります。
Q. マンションの管理組合に内緒で手続きできますか?
A. 非常にリスクが高い、あるいは不可能です。自動火災報知設備の受信機が管理人室にある場合など、連動工事が必要なケースがあります。また、消防署が現地検査に来た際に発覚し、トラブルになる事例が後を絶ちません。事前に承認を得て進めるのが鉄則です。
まとめ:まずは図面を持って消防署へ行こう
民泊の消防法対応は、一見複雑に見えますが、正しい手順(判定→相談→施工)を踏めば確実にクリアできる課題です。
最優先すべきは「所轄消防署への事前相談」です。
2025年現在、法令解釈や条例は地域ごとに細かく運用されています。ここで「特定小規模施設の特例」が適用できると判断されれば、費用も工期も大幅に圧縮できます。これから民泊を始めるオーナー様は、物件の図面を用意し、まずは相談の予約を入れるところから始めましょう。
具体的な設備の仕様や選び方については、別記事「民泊 消防設備」で詳しくご紹介します。制度を正しく理解し、安全で持続可能な民泊運営を目指してください。
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