「親から相続した家を民泊にしてみたいけど、法律が難しくて…」
「自分の物件が知らないうちに『違法建築』になっていたらどうしよう?」
民泊事業に興味をお持ちのあなたなら、このような不安を感じているかもしれません。
民泊運営を成功させるには、大前提として「建築基準法」を正しく理解することが不可欠です。この法律を理解せず事業を進めてしまうと、最悪の場合、営業停止命令を受けるリスクもゼロではありません。
この記事では民泊オーナーに向けて、複雑な建築基準法のポイントをどこよりも分かりやすく解説します。
民泊に関わる法律の要点をつかみ、民泊運営に役立ててください!
なぜ民泊運営に建築基準法の知識が必要なのか?

「民泊を始めるだけなのに、なぜ建物の法律まで?」と思うかもしれません。
建築基準法は、建物の安全性や衛生環境を守るための最低限のルールを定めた法律です。私たちが普段「住宅」として使っている建物と、お客様を泊めて対価を得る「宿泊施設(ホテルや旅館など)」とでは、この法律で求められる安全基準が異なります。
特に不特定多数の人が利用する宿泊施設は、火災発生時の避難のしやすさなど、住宅よりも厳しい安全基準が課せられています。そのため、住宅として建てられた建物を民泊施設として使う場合、この基準の差を埋めるための手続きである「用途変更」が必要になるケースが多いのです。
この知識がないと、「開業した後に消防署や役所の立ち入り調査で違反を指摘され、営業停止になってしまった…」という最悪の事態も起こり得ます。そうならないためにも、基本を押さえておきましょう。
まずはコレを理解!あなたの民泊はどのタイプ?3つの運営形態と建築基準法
民泊の運営方法は、主に以下の3つの法律に基づいて分類されます。どの形態で運営するかによって、建築基準法との関わり方も変わってきます。
1. 民泊新法(住宅宿泊事業法)
年間営業日数が180日以下という制限がありますが、比較的始めやすいのがこのタイプです。
原則として「住宅」として扱われるため、建築基準法上の「ホテル・旅館」への用途変更が不要なケースが多いのが最大の特徴です。
しかし、民泊新法だからといって建築基準法が一切関係ないわけではありません。宿泊客の安全確保のため、施設の床面積が一定規模を超える場合や、建物の構造によっては、安全基準を満たすための追加措置が求められます。
例えば、停電時に避難経路を照らす非常用照明の設置は、多くのケースで義務付けられています。
ポイント:お試しで始めたい、副業として運営したい方向け。
2. 旅館業法(簡易宿所営業)
年間営業日数の制限がなく、本格的な事業として運営したい方向けです。この場合、建物は建築基準法上の「ホテル・旅館」として扱われ、建築基準法上の要件はより厳しくなります。そのため、住宅だった建物を活用する場合は、原則として用途変更の確認申請が必要です。
用途変更によって、耐火性能の向上や竪穴区画の設置、非常用照明の強化など、改修工事が必要になるケースもあり、初期投資は大きくなる傾向があります。
ポイント:収益を最大化したい、専業として取り組みたい方向け。
3. 特区民泊
東京都大田区や大阪市など、国が定めた特区でのみ認められている形態です。旅館業法の規制が一部緩和されていますが、自治体ごとに独自のルールがあり、建築基準法や消防法のチェックは同様に必要です。
ポイント:対象エリアに物件がある方向け。
まずはあなたの事業計画がどのタイプに当てはまるのかをイメージすることが、最初のステップです。
特区民泊のイロハ|初心者でも分かる開業への道のり
【2025年最新】建築基準法の改正が民泊事業者に与える影響

法律は常にアップデートされます。ここでは、民泊オーナーが知っておくべき近年の法改正について、正確に解説します。
既に始まっている重要な規制緩和:用途変更が200㎡未満まで確認申請不要に!
民泊オーナーにとって最も影響が大きいのが、2019年6月に施行された規制緩和です。これによって建物を住宅からホテル・旅館などへ用途変更するとき、床面積が200㎡(約60坪)未満の場合は、建築確認申請が原則不要になりました。
・床面積100㎡以上の建物を用途変更する場合 → 建築確認申請が必要
【2019年の規制緩和後】
・床面積200㎡以上の建物を用途変更する場合 → 建築確認申請が必要
※床面積200㎡未満の場合 → 建築確認申請が不要
それ以前は100㎡が基準だったため、一般的な戸建て住宅(30〜40坪程度)の多くがこの緩和の恩恵を受け、民泊への転用がしやすくなりました。あなたの相続したご実家が120㎡であれば、まさにこの対象となります。
注意ポイント
申請が不要でも、建築基準法の基準(耐火要件や避難規定など)を遵守する義務がなくなるわけではありません。あくまで手続きが簡略化されただけで、法律は守る必要があります。
2025年4月から施行された改正のポイント
2025年4月の改正では、主に新築や大規模リフォームにおける建物の安全基準に関する審査がより厳格になりました。これに加え、「旅館業法」ではすでに行政処分や罰則が強化されており、国として違法民泊への取り締まりを強める流れが明確になっています。
建築基準法に違反する形で民泊を運営をすると、事業停止命令や高額な罰金が課せられる場合があります。また社会的な信用を失い、物件自体の資産価値が大きく低下するといったリスクに直面する可能性もあります。
・4号特例の縮小: これまで審査が簡略化されていた小規模な木造住宅(2階建て以下など)の一部で、リフォーム時に省エネ性能などの審査が厳格化されます。
・省エネ基準への適合義務化: 全ての新築建物で、断熱性能などの省エネ基準を満たすことが義務付けられます。
あなたの物件は大丈夫?民泊事業者が押さえるべき建築基準法7つの重要ポイント

ここでは建築基準法でおさえるべき、7つのチェックポイントを解説します。
①最重要!建物の「用途」と「用途変更」
建物の「用途」とは、その建物が何のために使われるかを示す分類のことです。建築基準法では、学校、ホテル、住宅などの用途が定められています。
「用途変更」とは、建物の使い方を、建築基準法で定められた別の分類の用途へ変えることです。
旅館業法で民泊運営をする場合、用途は「住宅」から「ホテル・旅館」に変更(用途変更)する必要があります。前述の通り、200㎡未満であれば確認申請は原則不要ですが、法律への適合は必須です。
用途変更の確認申請が必要なケースとは
旅館業法で民泊を運営し、かつ対象の床面積が200㎡以上の場合。
大規模なリフォームや増改築を伴う場合。など
この確認申請は、建築士による詳細な図面の作成や、行政庁などによる厳格な審査を伴います。旅館業法に基づいた民泊をする際は、「用途変更の確認申請」が事業開始までの重要なハードルとなりうることを認識しておきましょう。
なお、建築確認申請が不要でも、都市計画法や消防法上の手続きとは全く別の話です。それぞれの用件を確認しておきましょう。
②立地に関わる「用途地域」
都市計画法により、土地は「住居専用地域」「商業地域」といった「用途地域」に分けられています。地域によっては、そもそもホテルや旅館の営業が認められていない場所があります。
特に厳しいのが「第一種低層住居専用地域」です。物件の購入や民泊への転用を考える際は、まずその土地の用途地域を自治体のウェブサイトや窓口で確認しましょう。
「民泊できない」を防ぐ用途地域ガイド|種類や制限緩和の動向・またがる場合も解説
③火災を防ぐ「耐火・防火の規定」
お客様の命を守る上で最も重要なのが火災対策です。
○耐火建築物: 主要な構造部(柱、壁、床など)に耐火性能の高い材料を使った建物のことです。都市部の防火地域にある建物などは、耐火建築物であることが求められます。
④避難経路の確保
万が一の際に、お客様が安全に避難できる経路の確保も必須です。
非常用照明: 停電時でも避難経路がわかるように、非常用のバッテリーで点灯する照明の設置が義務付けられています。
接道義務: 建物の敷地は、「幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならない」というルールです。路地の奥にある物件などは注意が必要です。
この接道義務を満たしていない土地に建つ建物、いわゆる「再建築不可物件」では、原則として新たな建築物の建築や大規模な改修は許可されません。細心の注意を払いましょう。
⑤快適性に必須の「採光・換気」
宿泊するお客様が快適に過ごせるよう、床面積に対して一定割合以上の大きさの窓を設けて自然光を取り入れること(採光)、そして十分な換気を確保できる設備や開口部を設けること(換気)についても基準が定められています。
具体的には、居室(寝室や居間など)の床面積の7分の1以上の採光に有効な窓、および床面積の20分の1以上の換気に有効な開口部(窓や換気設備)が必要とされています。この基準を満たさない、たとえば窓のない部屋を客室として提供することは、原則として認められません。
⑥「検査済証」がないとどうなる?
「検査済証」とは、建物が完成した際に、建築基準法に適合していることを証明する公的な書類です。この書類がないと、適法な建物であることの証明が難しく、用途変更の手続きや融資の際に大きなハードルとなる場合があります。古い建物では紛失しているケースも多いので、有無を確認しましょう。
⑦意外な落とし穴「既存不適格建築物」
「既存不適格建築物」とは、建てられた当時は合法だったものの、その後の法改正によって現行の基準に合わなくなった建物のことです。違法建築とは異なりますが、増改築を行う際には現行の法律に適合させる必要があります。
もう迷わない!建築基準法違反を回避する3つの具体ステップ

「チェック項目はわかったけど、具体的に何から始めれば…」というあなたのために、具体的なアクションを3つのステップにまとめました。
ステップ1:物件の現状把握
まずは、あなたの武器となる物件の情報を正確に把握しましょう。
「検査済証」「確認済証」の有無を確認する: 自宅や役場の保管書類を確認します。検査済証がない物件では、改めて既存建物の調査や法適合性の確認が必要です。
図面を確認する: 建築時の図面があれば、専門家が相談に乗る際の重要な資料になります。
違法な増改築がないかチェックする: 書類と現状が違う部分がないか確認しましょう。(例:図面にはないサンルームが増築されているなど)
ステップ2:専門家への事前相談
自己判断は禁物です。必ず専門家や行政に相談しましょう。相談は無料の場合が多いので、積極的に活用してください。
自治体の建築指導課や保健所: 民泊運営を計画している自治体の担当部署です。その地域独自の条例や指導について教えてもらえます。
建築士や行政書士: 用途変更の可否判断や、複雑な書類作成・申請手続きを代行してくれる専門家です。検査済証がない場合など、難しい案件にも対応してくれます。
ステップ3:用途変更の申請手続きフロー
用途変更を申請する際の、基本的な流れを8ステップでご紹介します。
建築士への相談・依頼: 計画初期に建築士に相談し、物件の法適合性や用途変更の可能性について診断を受けます。
現地調査・法規チェック: 建築士が現地調査を行い、建物の状況や関連法規への適合状況を確認します。
設計図書・申請書類の作成: 用途変更に必要な設計図面(平面図、立面図など)や、確認申請書類を作成します。
建築主事または指定確認検査機関への建築確認申請: 作成した書類を自治体の建築主事、または民間の指定確認検査機関に提出し、審査を受けます。
審査・(中間検査): 提出された書類が法規に適合しているか審査が行われます。必要に応じて、工事の途中で中間検査が実施されることもあります。
工事着工・完了: 建築確認済証が交付された後、用途変更に伴う改修工事を着工し、完了させます。
- 完了検査: 工事完了後、建築主事または指定確認検査機関による完了検査を受け、設計図書通りに工事が実施されたかを確認します。
- 検査済証の交付: 完了検査に合格すると、検査済証が交付され、正式に用途変更が認められます。
建物によってはこの一連の手続きに、数ヶ月から半年以上を要することもあります。早めに専門家と連携し、計画的に進めることが成功の鍵です。
建築基準法だけじゃない!あわせて確認すべき「消防法」の注意点

建築基準法と密接に関わるのが「消防法」です。建物の規模や構造に応じて、以下の設備の設置が義務付けられています。
自動火災報知設備
誘導灯(緑色の避難口のマーク)
消火器
これらの設備は、人命に直結するため非常に厳しくチェックされます。
特に不特定多数の方が利用する民泊施設は、一般的な住宅よりも厳しい消防設備の設置が義務付けられてるので注意が必要です。これらの設備の設置には、専門業者による設計・施工が必要となり、相応のコストがかかることも考慮に入れておかなければなりません。
計画段階で必ず管轄の消防署に事前相談を行い、必要な設備について指導を受けましょう。
民泊で必要な消防設備を徹底解説!
まとめ:建築基準法を正しく理解し、安全で収益性の高い民泊運営を
今回は、民泊を運営する上で避けては通れない「建築基準法」について解説しました。
民泊には3つの形態があり、選ぶタイプで建築基準法との関わり方が変わる。
200㎡未満の用途変更は確認申請が不要になったが、法律を守る義務はある。
「用途地域」「耐火規定」「検査済証の有無」など、事前に確認すべきポイントは多い。
自己判断せず、必ず自治体の担当課や建築士などの専門家に相談する。
法律と聞くと難しく感じますが、一つひとつはあなたの大切な資産と、お客様の安全を守るための重要なルールです。この記事をブックマークして、あなたの民泊事業の計画にお役立てください。
法規をクリアして安全対策を万全にすることは、結果としてゲストの信頼を得て、収益性の高い民泊運営に繋がりますよ。

