民泊(住宅宿泊事業)の届出が完了し、いざ営業開始という段階で必ず行わなければならないのが「標識(民泊マーク)」の掲示です。
これは単なる看板ではなく、住宅宿泊事業法で定められた義務であり、違反した場合には罰則も存在します。しかし、「どの様式を選べばいいのか?」「具体的にどこに掲示すればいいのか?」といった実務的な疑問を抱く事業者様は少なくありません。
本記事では、民泊運営に欠かせない標識の種類、法令に基づいた正しい書き方、そして雨風対策を含めた具体的な掲示方法について、根拠となる法令を提示しながら解説します。
なぜ「標識」が必要なのか?

民泊施設に標識を掲示することは、住宅宿泊事業法 第13条によって義務付けられています。
この法律の主旨は、「公衆(近隣住民や通行人、宿泊者)」に対し、「この住宅は行政へ正式に届出を行い、適法に運営されている民泊施設である」ことを明らかにする点にあります。
法令等の根拠
【住宅宿泊事業法 第13条(標識の掲示)】
住宅宿泊事業者は、届出住宅ごとに、公衆の見やすい場所に、国土交通省令・厚生労働省令で定める様式の標識を掲げなければならない。(出典:e-GOV法令検索)
もし標識を掲示しなかった場合、または虚偽の内容を表示した場合は、同法に基づく業務改善命令の対象となるほか、30万円以下の罰金(第76条第2項)が科される可能性があります。
適法な運営を守り、近隣トラブルを未然に防ぐためにも、正確な標識の掲示は必須です。
【フローチャートで解決】あなたの施設に必要な標識はどれ?

民泊標識には、運営形態に応じて国が定めた様式(第4号〜第6号)があります。ご自身の運営スタイルがどれに該当するか、以下の定義に従って選定してください。
① 第4号様式:家主居住型
家主居住型は、ホストが宿泊施設内に居住しており、かつ、宿泊者の滞在中にホストが不在にならない形態です。または、不在になっても一時的であり、自ら管理業務を行う場合(一定の条件あり)もこちらに含まれます。
対象: 家主居住型(管理委託の必要がないケース)
条件:下記すべてを満たすこと
ホストが届出住宅で生活している。
宿泊者の滞在中にホストが不在にならない。
居室の数が5室以下である。
(※)住宅宿泊事業法第11条・施行規則第9条管理業務を住宅宿泊管理業者に委託していない。
特徴: 記載内容がシンプルで、管理業者情報の欄がありません。
家主居住型についての詳しい解説は以下の記事をチェックしてください。不在型との違いも紹介しています。
② 第5号様式:家主不在型 ※住宅宿泊事業者が自ら管理業務を行う場合
家主不在型のなかでも、特定の条件に当てはまる場合の様式です。
対象: 家主不在型で、自ら管理業務を行う場合
条件:下記すべてを満たすこと
施設(届出住居)と、オーナーが生活する場所が同じ建築物内、同じ敷地内、または隣接地にある。
居室の数が5室以下である。
(※)住宅宿泊事業法第11条・施行規則第9条
特徴: トラブル時の連絡先として「住宅宿泊事業者の緊急連絡先」を記載する必要があります。
③ 第6号様式:委託型
家主不在型で管理業務を住宅宿泊管理業者に委託する場合、または管理業者が自ら民泊運営を行う場合に使用する様式です。
対象: いずれかに当てはまる場合
管理業務を住宅宿泊管理業者へ委託する場合
住宅宿泊管理業者が自ら民泊を運営する場合
特徴: 管理業者の名称・登録番号(F+5桁)・緊急連絡先などの記載が必須です。
第5号様式と第6号様式は分かりづらい部分もあります。
家主不在型民泊では多くの場合で管理業務を委託する必要があり、第6号様式に当てはまることが多いですが、自治体に確認をするのが確実です。
【例外】自治体によっては「ステッカー」などが交付される場合がある
標識は国の様式が基本ですが、一部自治体では独自ステッカーなどの掲示を求める場合があります。
東京都大田区の例: 国の様式とは別に、区が発行する「周辺周知用ステッカー」等の掲示を求めている場合があります。
大阪市の例(特区民泊の場合): 認定を受けると、認定マーク(ステッカー)が交付されることがあります。
自治体によりルールが異なるため、必ず手引きや窓口で確認しましょう。
標識の入手方法と「書き方」の徹底ガイド

標識の公式様式は、「民泊制度ポータルサイト(観光庁)」や各自治体のホームページからダウンロードできます。
推奨フォーマット: パソコンで編集可能なWord版などをダウンロード➤入力➤印刷する方法が最も確実できれいです。
入手先: 民泊制度ポータルサイトの様式集(※外部サイトへ遷移します)
東京都の一部地域を始め、標識を窓口交付している自治体もあります。標識の入手方法については、自治体ごとに異なる場合があるので注意してください。
記載項目について
第4号様式
届出番号:「M+9桁の数字」
届出年月日: 届出の受理日
第5号様式
届出番号:「M+9桁の数字」
届出年月日: 届出の受理日
住宅宿泊事業者の緊急連絡先:原則として「常時(24時間)連絡可能な電話番号」
第6号様式
届出番号:「M+9桁の数字」
届出年月日: 行届出の受理日
- 住宅宿泊管理業者の名称:管理業者の商号や個人名
- 住宅宿泊管理業者の登録番号:「F+5桁の数字」
住宅宿泊管理業者の緊急連絡先:原則として「常時(24時間)連絡可能な電話番号」
法令と実務から見る「正しい掲示方法」

標識を印刷した後は、どこにどのように掲示すればよいのでしょうか?
法的要件:「公衆の見やすい場所」
規則では、「届出住宅の門扉、玄関その他これらに準ずる場所であって、公衆の見やすい場所」と定められています。
・道路に面した門扉やフェンス
・玄関ドアの外側(インターホンの横など)
・集合住宅の場合は、玄関ドアの横または郵便受け(※管理規約や管理組合との合意が必要)
・オートロックの内側(通行人が見られないため不適切とされる場合が多い)
・植栽に隠れて見えにくい場所
・屋内(風除室の内側など、外から視認できない場所)
サイズ・高さ・耐久性(実務的な推奨)
サイズ:
国のガイドライン上、様式のサイズ規定は厳密にはありませんが、一般的にA4サイズ程度での掲示が推奨されています。小さすぎて文字が読めないものは「掲示義務を果たしていない」とみなされるリスクがあります。高さ:
地上 1.2m 〜 1.8m 前後の、大人の目線の高さに設置するのが基本です。低すぎて泥はねで汚れたり、高すぎて読めなかったりしないように配慮しましょう。素材(雨風対策):
屋外掲示が原則のため、紙のまま貼るのはNGです。ラミネート加工を施す
アクリル板や硬質ケースに入れる
市販の「屋外用・耐候性プレート」をオーダーする
これらにより、紫外線による退色や雨濡れを防ぐ措置を講じてください。
注意!「自治体ごとの上乗せ条例」を確認しましょう

民泊運営において最も注意すべきなのが、国が定めた法律に加え、各自治体が独自に定める「上乗せ条例」の存在です。
標識に関する独自ルールの例
京都市: 標識のサイズや掲示場所に詳細な指定があり、周辺住民への周知を厳格化している。
- 大阪市・大田区:独自ステッカーの掲示義務
ご自身の物件がある自治体のルールを確認せずに国の様式だけを貼っていると、条例違反となる可能性があります。必ず「地域名 民泊 手引き」などで検索し、自治体のガイドラインに目を通してください。
まとめ|正しい標識掲示で安心・安全な運営を
標識の掲示は形式的な作業ではなく、
「法令遵守」「安心・安全の運営」「近隣トラブル防止」 に直結する重要なステップです。
義務:法第13条で掲示が必須
様式:運営形態により第4〜6号様式を使用
記載:届出情報は正確に転記
掲示:公衆が見やすい屋外へ
注意:自治体独自ルールも必ず確認
これから民泊運営を始める事業者様は、本記事を参考に、適法で安心感のある施設づくりを進めてください。疑問があれば、自治体の民泊担当窓口へ相談することをおすすめします。
