民泊の消防設備|費用は?おすすめは?個人オーナー必見の選び方と導入ガイド

「民泊を始めたいけれど、消防設備って具体的に何を買えばいいの?」
「業者に見積もりをとったら思ったより高かった…これって適正価格?」

民泊の開業準備で、多くのオーナー様が頭を抱えるのが「消防設備」です。
専門用語が多くて分かりにくい上に、失敗すると「許可が下りない」「再工事でお金がかかる」というリスクがあるからです。

本記事では、「消防法令上、必要な設備の種類」「リアルな費用相場」などを解説します。

最近は、大掛かりな工事が不要な「無線タイプ」の設備も普及しており、賢く選べばコストを抑えることも可能です。安全な民泊を作るためのガイドの1つとしてご活用ください。

はじめに:消防設備は「最強の保険」です

設備の解説に入る前に、ひとつだけ大切な考え方をお伝えします。
消防設備は、法律だから仕方なく付けるものではなく、オーナー自身と事業を守るための保険とも言えるものです。

万が一火災が起きた際、設備不備があるとゲストの命に関わるだけでなく、オーナーは法的な責任を問われます。逆に、しっかりとした設備投資はゲストの安心感に繋がり、レビュー評価を高める武器にもなります。
「最低限の義務」を満たしつつ、「管理しやすい設備」を選ぶことが、長い目で見てコストダウンに繋がります。

【3分チェック】あなたの民泊はど「用途」か?

チェック

消防設備は、「消防法令上の用途」つまり建物の使い方によって必要な設備が決められています。まずはご自身の物件がどちらに近いか確認しましょう。
※消防法についての詳しい内容は民泊 消防法 完全ガイドをご覧ください。

ざっくり判定基準

レベル1:住宅扱い(規制が緩やか)
条件:家主が一緒に住んでいる + ゲストの部屋が50㎡以下
→ 一般的な住宅に近い設備(ホームセンターで買えるものなど)で済むことが多いです。

レベル2:宿泊施設扱い(規制が厳しい)
条件:家主がいない(一棟貸しなど) または ゲストの部屋が50㎡超
→ ホテルや旅館と同じような、本格的な消防設備が必須になります。

民泊に必要な主な消防設備と選び方

消防設備

ここでは、民泊で特に重要となる消防設備について解説します。

自動火災報知設備(自火報)

火災による煙や熱を感知し、建物全体に警報音(ベルや音声)を響かせて避難を促す設備です。民泊が「宿泊施設扱い(レベル2)」となる場合、原則として設置が必須となります。

この設備は大きく分けて「一般的な有線タイプ」と、民泊でよく使われる「特定小規模施設用(無線タイプ)」の2種類があります。建物の広さによって使えるタイプが異なります。

A. 一般的な自動火災報知設備(300㎡以上など)
主に延べ面積が300㎡以上の建物で必要となる本格的なシステムです。
天井にある「感知器」、非常ボタンである「発信機」、音を鳴らす「音響装置」、そしてこれらを制御する「受信機(本体パネル)」で構成されており、すべてが配線で物理的に繋がっています。
※導入には壁や天井の裏に配線を通す電気工事が必要となるため、工期が長く、費用も高額になりがちです。
B. 特定小規模施設用自動火災報知設備(300㎡未満向け)
延べ面積が300㎡未満の小規模な民泊であれば、特例としてこちらのタイプが採用可能です。個人オーナー様には断然こちらをおすすめします。
【最大の特徴:配線工事が不要】
多くの製品が「無線式(ワイヤレス)」を採用しており、機器同士が電波で通信します。そのため、壁や天井を壊して配線を通す必要がなく、ドライバー等で比較的簡単に設置できます。
工事費・工期ともに大幅に圧縮できるため、リノベーション物件での採用が主流です。
 ここがポイント:「連動型」を選ぶ
この設備は、「火元の部屋だけ」が鳴るのではなく、「一部屋が感知すると、建物内の全ての警報器が一斉に鳴る(連動する)」仕組みであることが重要です。
特に特定小規模施設用(無線式)の場合、機器同士がペアリングされている必要があります。東京都をはじめとする多くの自治体条例でも、早期避難のためにこの「連動機能」が強く求められています。単独で鳴るだけの住宅用警報器とは別物ですので、選定の際は十分ご注意ください。

誘導灯・非常用照明

誘導灯と誘導標識は、非常時に建物から迅速に退避できるよう、避難経路を指し示すことを目的に設置する消防設備です。この2つは似ていますが、役割が異なります。

誘導灯(緑のマーク): 「出口はあっち」と教える看板です。部屋から出口が見える場合など、免除されるケースがあります。
誘導標識:避難口である旨や避難の方向を明示した緑色の標識のこと。廊下など避難上有効な「多数の人の目に触れやすい箇所」に設置するものとされています。

宿泊室から直接外部に出て避難可能な場合など一定の免除要件を満たす場合を除き、これらの設備の設置が必要です

消火器

消火器は、出火後1~2分の初期消火の際、安全かつ確実に消火活動を行うための消防設備です。建物の延べ面積が150㎡以上の場合や、地階・無窓階・3階以上の階が床面積50㎡以上の場合、設置が義務付けられています。

家庭用ではなく、必ず業務用消火器(蓄圧式粉末ABC 10型)を選んでください。ネット通販等で購入可能ですが、使用期限の管理が必要です。

  • 設置場所: 各階に1本以上。キッチンや玄関など、目につきやすく通行や避難に支障が出ない場所に設置。
  • 忘れがち: 消火器本体だけでなく、「消火器はこちら」と示す標識プレートも必ず貼ってください。

非常用照明設備

非常用照明設備とは、停電時に自動点灯する非常用の照明装置のことで、建物の用途や規模に応じて設置が義務付けられています。原則として直接照明で火災時にも問題なく明かりが点灯し、かつ国が定めた基準をクリアしたものでなければなりません。

細かい規定があるため、非常用照明ガイドで詳細を確認してください。

スプリンクラー消火設備(必要に応じて)

スプリンクラー消火設備とは、火災を自ら感知して自動的に消火を行う消防設備のことを指します。

消防法施行令の別表第1に定められている建物の用途のうち、11階以上のフロアなど一定の条件に当てはまる場合は、設置が必要になります。

一般的な民泊では、天井の高さが10m以下の場合に設置可能な「閉鎖型」のスプリンクラーを導入していることが多く、熱を感知すると変形または破損する「感熱体」が搭載され、火災の際に水が一気に放出される仕組みになっています。なお、設置工事に多額の費用がかかるという点には注意が必要です。

避難経路図(必要に応じて)

避難経路図とは、火事などの災害発生時、利用者が安全に避難するための道筋を示した図のことを指します。

建物の設計図を基に、消防法や建築基準法で定められた「避難経路の確保」に関する規定に則って作成を行い、居室内に掲示しなければなりません。避難経路図には、玄関からの避難が困難な場合を想定し、2つ以上の避難経路を表記する必要があります

また、設置されている消火設備や避難器具の場所を認識しやすいよう、図形の使用や色分けを行い、分かりやすく表記を行うという点も重要なポイントとなります。

【いくらかかる?】費用のリアルな目安

民泊

工事費や物価の上昇傾向にある2025年現在の相場観をお伝えします。

物件タイプ初期費用の目安
(機器+工事費)
ポイント
戸建て民泊
(家主不在型・小規模)
40万〜60万円無線式の自動火災報知設備、誘導灯、消火器の一式。
部屋数が多いと高くなります。
マンション一室
(家主不在型)
15万〜数百万円※要注意※
マンション全体の警報設備と接続工事が必要になると、一気に高額になります。
家主居住型
(住宅扱い)
数万円〜DIY可能な範囲(住宅用警報器・消火器)なら材料費のみで済みます。

上記は目安であり、費用の総額は建物の用途や状況によって異なります。場合によっては数百万円規模の金額になることもあります。中でも高額なのがスプリンクラーの設置費用で、マンションなどの共同住宅を利用した民泊の場合、複数のフロアに設置すればより高額になることも想定されます。

特区民泊の場合、家主同居型であっても消防設備に関する緩和措置の項目が無いため、スプリンクラー等の高額設備の設置も免除されないという点に注意しておきましょう。

ランニングコストも忘れずに

設備は「付けて終わり」ではありません。「宿泊施設扱い」の場合、法律で以下のメンテナンスが義務付けられています。

  • 定期点検: 半年に1回、プロ(消防設備士)によるチェック。
  • 維持費の目安: 年間 3万円〜5万円程度(業者委託の場合)。

業者に見積もりを依頼する際は、「設置費用」だけでなく「その後の点検費用」も合わせて確認すると安心です。

【失敗しない】導入から届出までの5ステップ

5ステップ

手戻りを防ぎ、最短でオープンするための手順です。特にSTEP1を飛ばさないことが絶対条件です。

STEP1:管轄消防署へ「事前相談」

物件の図面を持って、必ず工事の前に消防署(予防課)へ相談に行きます。
ネットの情報だけで判断せず、「この部屋は誘導灯を免除できますか?」「無線式の簡易型でOKですか?」と担当者に確認し、言質をとってください。
※東京23区、大阪市、京都市などは独自の上乗せ条例があり、ルールが厳しい場合があるので要注意です。

STEP2:専門業者へ見積もり依頼

事前相談の結果をもとに、業者へ見積もりを取ります。

  • 相見積もり: 最低2〜3社から取りましょう。「一式」ではなく内訳が明確な業者を選びます。
  • 民泊実績: 「民泊の工事はやったことがない」という業者は避け、民泊の実績が豊富なプロを選びましょう。

STEP3:設置工事

プロ用の設備(自動火災報知設備など)の設置には国家資格が必要です。DIYは違法になるので、必ず有資格者に依頼してください。無線式なら、工事自体は1日程度で終わることが多いです。

STEP4:届出・現地検査

工事が終わったら消防署へ書類を出し、現地検査を受けます。
検査では、設備の作動確認だけでなく、「カーテンに防炎ラベルが付いているか」「避難経路図が貼ってあるか」も厳しくチェックされます。

STEP5:適合通知書の交付

検査に合格すると、数日後に「消防法令適合通知書」が交付されます。これが手に入れば、いよいよ民泊の許可申請に進めます!

まとめ:まずは図面を持って消防署へ

民泊の消防設備について解説しました。最後に要点を整理します。

  1. 自己判断しない: 必ず図面を持って消防署へ行き、必要な設備を確定させる。
  2. 無線式を活用: 小規模(300㎡未満)なら、配線工事不要のタイプでコストを抑える。
  3. 条例に注意: 東京や大阪などの観光地は、国よりもルールが厳しいことがある。
  4. 防炎物品も忘れずに: カーテンやじゅうたんは「防炎ラベル付き」を買う。

消防設備は専門的で難しく感じるかもしれませんが、手順さえ守れば確実にクリアできる課題です。
まずは「自分の物件には何が必要か」を知るために、管轄の消防署へ相談の予約を入れるところから始めてみましょう。

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