民泊(住宅宿泊事業)を始める際、オーナー様が最初にぶつかる壁が管理業務をどこまで自分でやるか、どこからプロに任せるかという問題です。
「集客や清掃は誰がやるの?」「夜中にトラブルが起きたら?」
こうした不安を解消し、安全かつ収益性の高い運営を実現するためのパートナーが「住宅宿泊管理業者」です。
特に「家主不在型(オーナーが物件に居住しないタイプ)」で運営する場合、法律で管理業者への委託が義務付けられています。しかし、業者によってサービス内容や費用、トラブル対応力には大きな差があるのが現実です。
この記事では、管理業者の役割、適正な費用相場、失敗しない選び方の基準、そして契約時の法的チェックポイントまでを、実務に即して体系化しました。「任せて安心」な体制を作るための実践ガイドとしてお役立てください。
住宅宿泊管理業者とは? 3分でわかる役割と法的定義

民泊は関わるプレイヤーが似た言葉で混ざりやすいので、まずは「3つの事業者」の役割を整理しましょう。ここが曖昧だと、トラブル時の責任の所在がわからなくなります。
民泊運営の「3つの事業者」
ここではそれぞれの役割を表にまとめました。
| 区分 | 代表例 | 主な役割 | 責任の重さ |
|---|---|---|---|
| 住宅宿泊事業者 | オーナー(届出名義人) | 物件の所有者であり、民泊事業の最終責任者です。届出を行い、行政への定期報告義務を負います。 | 最終責任者 |
| 住宅宿泊管理業者 | 登録済みの管理会社 | オーナーから委託を受け、清掃、鍵の管理、ゲスト対応、近隣対応などの「現場実務」を行う、国に登録された専門業者です。 | 運用責任(委託範囲内) |
| 住宅宿泊仲介業者 | TABILMO等のOTA | 集客・予約・(場合により)決済のプラットフォーム。現場運営は行いません。 | 現場運用は原則しない |
ポイントは、「集客(仲介)」と「現場(管理)」は別物ということです。トラブルの多くは、ここが曖昧なまま始めてしまうことで起こります。
法律で「委託」が義務になるケース
住宅宿泊事業法(民泊新法)では、以下のいずれかに当てはまる場合、登録を受けた住宅宿泊管理業者への業務委託が必須となります。
- 家主不在型:ゲスト滞在中にオーナーがその住宅に不在となる場合(投資用マンションや別荘など)。
- 部屋数が多い:家主居住型であっても、1棟で6室以上を提供するなど、規模が大きく自力管理が難しい場合。
逆に、オーナー様が同じ家に住んでおり、常にゲスト対応ができる「家主居住型」の場合は、委託の義務はありません。しかし、「24時間の駆けつけ対応」や「英語でのクレーム対応」を個人の力だけで365日続けるのは現実的に困難です。そのため、居住型であっても一部業務を委託するオーナー様が増えています。
下記の記事内容が参考になりますので、ぜひチェックしてください。
➤民泊標識の正しい掲示方法と書き方|様式ダウンロードから法令上のルールまで徹底解説
どこまで任せる? サービス範囲と費用相場

管理業者への委託には、すべて任せる「完全代行」と、必要な部分だけの「部分委託」があります。ご自身のライフスタイルに合わせて選びましょう。
① 完全代行プラン(運用代行)
「物件はあるが時間がない」「遠方に住んでいる」という方向け。集客から清掃、トラブル対応まで丸投げできるプランです。
- 費用相場:宿泊売上の15%〜30%(成果報酬型)
- 主な業務:
- OTA(TABILMO等)のアカウント作成・運用
- 価格調整(ダイナミックプライシング)
- ゲスト対応(予約〜チェックアウト後のメッセージ)
- 清掃・リネン手配
- 緊急駆けつけ・近隣トラブル対応
手数料に「清掃費」が含まれているか必ず確認しましょう。「手数料20%」と安く見えても、清掃費が毎回実費請求で、トータルコストが高くなるケースがあります。
② 部分委託プラン(再委託型)
「予約対応は自分でやりたい」「清掃だけ頼みたい」という方向け。
費用相場と「高い・安い」の見分け方
費用は地域・物件タイプ・運用の深さで変わります。よくあるのは次の組み合わせです。
- 運用手数料(売上連動):売上の◯%
- 固定費:月額◯万円
- 実費:清掃費、リネン費、消耗品、駆けつけ費など
見分け方はシンプルで、「何が含まれていて、何が別料金か」を表にして比較することです。安く見えるプランほど、夜間対応・駆けつけ・消耗品・レビュー返信などが別料金になっていることがあります。
【失敗しない】管理業者選び・7つのチェックリスト

管理業者の質は、そのまま「ゲストの満足度」と「収益」に直結します。ホームページの綺麗さだけで選ばず、以下の7点を必ず確認してください。
1. 国土交通省の「登録業者」であるか
基本中の基本ですが、無登録の「自称・代行業者」に委託するのは違法です。必ず国土交通省のシステムで住宅宿泊管理業者の登録番号を確認し、登録業者に委託してください。
2. 「緊急時の対応スピード」が数値化されているか
騒音トラブルや鍵の紛失時、対応が遅れると近隣からの信頼を一瞬で失います。 「電話応答は10分以内」「現地駆けつけは30分以内」など、具体的な目標基準を持っている業者を選びましょう。
3. そのエリアでの「実績と土地勘」はあるか
民泊のルールは自治体(条例)によって大きく異なります。「ゴミ出しのローカルルール」や「近隣住民の気質」を熟知している地元の管理業者は、トラブル回避能力が高いです。
4. OTA(集客サイト)の運用スキル
ただ掲載するだけでなく、「検索順位を上げるためのSEO対策」ができるかが収益の分かれ目です。「写真の撮影代行はあるか」「レビュー返信は24時間以内に行っているか」を確認しましょう。
5. 清掃クオリティの管理体制
レビューが荒れる原因のNo.1は「清掃不備」です。 「清掃完了後に毎回写真を撮って報告してくれるか」「清掃スタッフのマニュアルはあるか」を質問してください。
6. 収支報告の透明性
「毎月どのようなレポートが出るか」サンプルを見せてもらいましょう。売上だけでなく、清掃費や修繕費などの経費が明確に記載されているかが重要です。
7. 契約解除の条件
「万が一、対応が悪かったら解約できるか」は重要です。最低契約期間や違約金の有無を契約前に必ずチェックしてください。
契約最重要ポイント|トラブルを防ぐために

業者を決めたら、最後に「管理受託契約」を結びます。ここでも実務的な注意点があります。
契約で必ず押さえる条項(SLA・再委託・違約金など)
契約は「揉めないため」ではなく、運用を止めないための設計図です。契約時に改めて下記の点をチェックしましょう。
- 委託範囲:何をやって、何はやらないか(範囲外の料金も)
- 対応時間:問い合わせ一次返信◯分、緊急出動◯分など
- 再委託:清掃会社など外部活用の可否と責任分界
- 個人情報:名簿・本人確認情報の保管、アクセス権、廃棄方法
- 事故・苦情フロー:行政・近隣・ゲストへの連絡順、記録の取り方
- 解約条項:最低契約期間、違約金、引継ぎ義務(鍵・アカウント・備品)
「再委託(丸投げ)」の禁止事項
法律上、受託した管理業者が、業務の「すべて」を他社に丸投げ(再委託)することは禁止されています(部分的な再委託はOK)。 契約書において、「再委託先がどこで、誰が責任を持つのか」が明確になっているか確認しましょう。
2026年以降に稼働予定「新システム」への対応
観光庁は、違法民泊対策として、OTA・管理業者・行政をつなぐデータベースのAPI連携強化(民泊制度運営システムの改修)を進めています。 これからの管理業者選びでは、こうした「行政のDX化・規制強化」にシステム対応できるITリテラシーのある業者かどうかも、長期的な安心材料になります。
よくあるQ&A

Q1. 家主居住型なら管理業者は不要?
法律上の「委託義務」に該当しないケースはありますが、夜間対応・清掃品質・近隣対応を自力で回せないなら、部分委託やフル委託を検討した方が結果的に安定しやすいです。
Q2. 管理会社に任せたら、事業者の責任はなくなる?
なくなりません。住宅宿泊事業者(届出名義人)は最終責任者です。だからこそ、契約で役割分担と報告義務を明確にし、運用を「見える化」することが重要です。
Q3. 「とにかく安い」管理会社は危険?
一概に危険とは言い切れませんが、夜間対応や駆けつけが弱い・品質管理が薄い・追加費用が多い、ということは起こりがちです。費用は「総額」と「含まれる範囲」で比べるのが正解です。
Q4. 自分で管理業者になることはできる?
可能です。コストを極限まで抑えるために、オーナー様ご自身が「住宅宿泊管理業者」の登録を受けて運営する方法もあります。 従来は不動産の実務経験などが必要でしたが、現在は「登録実務講習」を受講し修了試験に合格することで、個人でも登録が可能になりました。
ただし、ご自身が管理業者になるということは、「24時間365日のクレーム対応」「1時間以内の現地駆けつけ義務(※距離要件あり)」をご自身で負うことを意味します。 副業で検討されている方は、現実的に対応可能かどうか慎重な判断が必要です。
まとめ:信頼できるパートナー選びが成功の鍵
住宅宿泊管理業者は、単なる「作業代行」ではありません。オーナー様の大切な資産を守り、収益を最大化するためのビジネスパートナーです。
今日の重要ポイント:
- 家主不在型なら委託は義務。居住型でもプロの手を借りるのが現実的。
- 安易に手数料の安さだけで選ばず、「緊急対応力」と「集客力」で選ぶ。
- 契約前に「どこまでやってくれるか」を書面で確認する。
本記事を、住宅宿泊管理業者への委託する際のロードマップとして、ぜひお使いください。
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