「民泊を始めたいけれど、何か特別な講習を受ける必要はあるの?」
「管理業務を自分でやって経費を浮かせたいけれど、資格がないとダメ?」
民泊(住宅宿泊事業)を検討中の方にとって、法律や手続きの壁は高く感じられるものです。特に「講習」に関しては、事業形態や管理方法によって「必要」か「不要」かが分かれるため、最初に自分の立ち位置を把握することが大切です。
結論から言うと、家主が同居するタイプなら原則として講習は不要です。一方で家主不在型で自分で管理までやりたい場合は、法律上の要件を満たすために住宅宿泊管理業者として登録できる体制が必要になり、「住宅宿泊管理業登録実務講習」の受講が最短ルートとなります。
この記事では、あなたが講習を受けるべきかを判断する基準から、実際の申し込み手順、試験対策、そしてかかった費用をどう回収するかまで、現場目線で徹底的に解説します。
民泊運営に講習は必要?

【早見表】自分には講習が必要?一目でチェック
まずは以下の表で、ご自身の予定している運営スタイルに講習が必要かどうかを確認しましょう。
| 事業形態 | 管理方法 | 講習の要否 | ポイント・法的要件 |
|---|---|---|---|
| 家主居住型 (ホスト同居) | 自主管理 | 原則不要 | 管理業登録は不要です。ただし、衛生管理や定期報告などの実務知識は必須です。 |
| 家主不在型 (空き家・別荘など) | 管理代行へ委託 | オーナーは不要 | 委託先の業者が「住宅宿泊管理業者」として登録済みか確認が必要です。 |
| 自主管理 | 登録実務講習が近道 | 「住宅宿泊管理業」の登録が必要です。実務経験や宅建士等の資格がない場合、登録実務講習の修了が登録要件となります。 | |
| 旅館業 (簡易宿所など) | 自主管理/委託 | 講習は任意 | 民泊新法とは別制度です。許可基準(消防・建築など)のハードルが高いため、専門家への相談が鍵となります。 |
このように、「家主不在型」で自主管理をしたいが、不動産管理の実務経験や資格がない人にとって、この講習は必須のパスポートとなります。
民泊講習(住宅宿泊管理業登録実務講習)とは?

一般的に「民泊講習」と呼ばれるものの正式名称は、「住宅宿泊管理業登録実務講習」といいます。
これは2018年に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、民泊の管理業務を行う「住宅宿泊管理業者」として国土交通省に登録するために必要な知識を習得する講習です。
2023年の制度改正で、誰でも個人で管理業者になれる時代へ
かつては、管理業者として登録するには「不動産管理の実務経験2年以上」や「宅地建物取引士」などのハードル高い要件がありました。
しかし、2023年の法改正により要件が緩和され、この講習を修了すれば、実務経験や特別な国家資格がなくても管理業者として登録できるようになりました。
これにより、サラリーマン大家さんや、副業で民泊を運営したい個人の方でも、外部委託せずに「自主管理」で高収益を目指す道が現実的になっています。
講習を受けるメリット:コスト削減と自由度
わざわざ講習を受けて自分で管理業者になる最大のメリットは、「管理委託費の削減」です。
- 一般的な管理委託費:売上の20%〜30%
- 自主管理の場合:自分で行うため0円(労力はかかります)
例えば月売上30万円の物件なら、毎月6〜9万円の手数料が浮く計算になります。また、ゲスト対応やハウスルールを自分の思い通りに設定できるため、こだわりの宿作りができる点も魅力です。
受講が必要か最終確認!判定フローチャート

「自分は本当に受ける必要がある?」と迷う場合は、以下のステップで判定してください。
Step 1:事業形態は「家主不在型」ですか?
家主が一緒に住むなら講習は不要です。不在型(空室貸し)の場合のみStep 2へ。
Step 2:管理業務を「自分(自社)」で行いますか?
管理会社に丸投げするなら、オーナー自身に資格は不要です。自分でやるならStep 3へ。
Step 3:登録要件を満たす資格や経験がありますか?
以下のいずれかをお持ちですか?
- 住宅の取引または管理に関する実務経験2年以上
- 宅地建物取引士
- 管理業務主任者
- 賃貸不動産経営管理士
→ いずれも「NO」の場合、講習の受講が必要です!
Step 3で資格をお持ちの方は、講習を受けなくても管理業登録が可能ですが、民泊特有のルール(定期報告や衛生管理)を学ぶために受講するのも有効です。
講習の内容・費用・実施機関の選び方

では、実際に講習を受けるための詳細を見ていきましょう。
学習内容とスケジュール感
講習は「法令」「管理実務」など、民泊運営に必要な知識を体系的に学びます。期間は実施機関によりますが、申し込みから修了証発行まで1ヶ月程度見ておくと安心です。
- 管理実務の実施方法:清掃、リネン交換、鍵の受け渡し方法など
- 法令関係:住宅宿泊事業法、旅館業法との違い
- トラブル対応:近隣苦情、騒音、ゴミ問題への対処法
- 安全確保措置:消防設備、非常用照明のチェック
受講費用と形式
費用は実施機関により異なりますが、相場は以下の通りです。
- 受講料:35,000円〜40,000円程度
- 形式:オンライン(eラーニング+Zoom等)または 対面講座
主要な実施機関の比較
自分に合ったスタイルで機関を選びましょう。
- 完全オンライン派なら「民泊学院」など
自宅にいながらeラーニングとZoom講義で完結。地方在住の方や忙しい方に最適です。 - 対面でしっかり派なら「全国農協観光協会」など
全国各地で会場開催の実績があります。講師に直接質問したい、横のつながりを作りたい方におすすめです。
※実施機関は国土交通省の登録を受けている必要があります。最新の開催日程は各機関の公式サイトをご確認ください。
試験対策のコツ:合格率は高い!
修了試験の合格率は公表されていませんが、一般的に9割以上と言われ、落とすための試験ではありません。以下のポイントを押さえれば大丈夫です。
- 講義中の強調ポイントをマークする:講師が「ここは重要です」と言った箇所は必ず出ます。
- 数値と期限を覚える:「定期報告は偶数月の15日まで」「宿泊者名簿の保存期間は3年」など、数字関係は狙われやすいです。
- テキスト持ち込み可否を確認:多くの講習でテキスト参照が可能です。丸暗記より「どこに何が書いてあるか」を把握しましょう。
費用回収シミュレーション:元は取れるのか?
| 項目 | 目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 住宅宿泊管理業者 登録免許税(新規) | 9万円 | 税務署へ納付し、領収書原本を申請書へ添付する案内。 |
| 登録審査期間 | 約90日 | 地方整備局の案内に「標準処理期間は約90日」と明記。 |
| 登録の有効期間 | 5年 | 更新申請の期間(満了日の90日前〜30日前など)も案内あり。 |
| 登録実務講習の受講料 | 実施機関により異なる | 国交省の「登録実務講習実施機関一覧」から選定。 |
「受講料約4万円+登録免許税9万円=約13万円」。初期費用として安くはありません。しかし、管理委託費を削減できる効果を考えると、回収期間は意外と短いです。
試算例
- 想定月売上:30万円
- 想定委託費(20%):6万円/月
- 初期費用合計:13万円
回収期間 = 13万円 ÷ 6万円 ≒ 2.2ヶ月
2〜3ヶ月運用すれば、初期費用の元が取れる計算になります。それ以降はずっと、委託費分がそのまま利益として手元に残ります。多少の手間をかけてでも、収益性を最大化したい方には合理的な投資と言えるでしょう。
知っておきたい落とし穴とコンプライアンス

最後に、よくある勘違いや注意点をまとめました。
Q. 「民泊適正管理主任者」という資格とは違うのですか?
A. 違います。民泊適正管理主任者は民間資格です。
「民泊適正管理主任者」は、知識の証明としては有用ですが、今回の記事で解説している「住宅宿泊管理業の登録要件」を満たす公的な資格ではありません。管理業登録が目的であれば、必ず国土交通省登録の「登録実務講習」を受けてください。
Q. 一度登録すればずっと有効?
A. 登録は5年更新です。
住宅宿泊管理業者の登録は5年ごとに更新が必要です。また、講習の修了証自体に有効期限はありませんが、法律が変わった際などは新しい知識のアップデートが求められます。
Q. 違反した場合のリスクは?
A. 無登録営業は厳罰対象です。
家主不在型なのに管理業者(または登録した自分)を置かずに運営すると、法的な罰則(6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金など)が科される可能性があります。また、名義貸しも禁止されています。
まとめ:知識は武器になる。最短ルートで登録を目指そう
2023年の改正以降、個人がプロの「住宅宿泊管理業者」として登録し、コストを抑えながら民泊運営を行うハードルはぐっと下がりました。
【本記事のポイント】
- 家主不在型・自主管理なら、講習受講が登録への近道。
- 費用(約13万円)は、委託費削減効果により数ヶ月で回収可能。
- 開業予定日から逆算して、まずは講習の予約を入れることが第一歩。
講習で得る知識は、単なる登録要件クリアのためだけでなく、ゲストの安全を守り、近隣トラブルを防ぐための強力な武器になります。
「わからないから委託する」のではなく、「わかった上で自分で委託するか管理するか選択する」賢いオーナーへの第一歩を、まずは講習の申し込みから踏み出してみませんか。
