その価格設定、機会損失や大量の売れ残りを生んでいませんか?
「週末や繁忙期はすぐに満室になるけど、本当はこの料金でよかったのだろうか…?」
「平日の予約が直前まで入らず、焦って値下げをしてしまう…」
ホテルや民泊、貸別荘を運営する中で、このような価格設定の悩みを抱えている方は少なくないでしょう。その悩み、「勘」や「経験」だけに頼っていることが原因かもしれません。
この記事では、データに基づいた戦略的な価格設定(レベニューマネジメント)の心臓部ともいえる「ブッキングカーブ」について、その基本から具体的な作り方、そして利益を最大化するための活用法まで、誰にでも分かるように解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたも自施設の予約状況を正確に把握し、自信を持って価格戦略を立てられるようになっているはずです。
ブッキングカーブとは?レベニューマネジメントの羅針盤
ブッキングカーブが示す「予約のペース」
ブッキングカーブ(ブッキングペース)とは、宿泊日に対して、どれくらい前から予約が入ってくるかのペースを可視化したグラフのことです。過去の予約実績データをもとに作成され、客室の需要予測や最適な価格設定を導き出すための、重要な指標となります。
横軸:宿泊日までの残り日数(リードタイム)
縦軸:その時点での予約室数や稼働率
この曲線を見ることで、「宿泊日の30日前時点では稼働率が30%」「7日前時点では80%」といった予約の積み上がり方が一目でわかります。このペースを把握することが、全ての戦略の第一歩となります。
なぜ今、勘や経験だけの価格設定が危険なのか?
かつては支配人の長年の経験や勘が価格設定において重要でした。しかし、OTAの普及や顧客ニーズの多様化により、市場は複雑化しています。
機会損失のリスク: 予約ペースが好調な日に料金を安いまま放置し、「もっと高く売れたはず」という機会損失を生んでしまう。
売れ残りのリスク: 予約ペースが鈍いのに強気な価格を維持し、最終的に大量の売れ残りを招いてしまう。
競合との消耗戦: データに基づいた根拠なく、近隣施設の価格に追随するだけの値下げ合戦に陥ってしまう。
ブッキングカーブは、こうしたリスクを回避し、データという客観的な根拠を持って価格をコントロールするための強力な武器となります。
レベニューマネジメントにおけるブッキングカーブの重要性
宿泊業では、一度過ぎ去った日の客室は二度と販売できないという、在庫の繰り越しができない特性があります。そのため、一日一日の客室をいかに効率良く販売し、収益を最大化するかが極めて重要です。
このような背景から生まれたのが「レベニューマネジメント」という経営手法です。これは過去のデータや市場の動向に基づいて需要を予測し、それに応じて料金や販売チャネル、在庫を柔軟に管理することで、収益の最大化を目指すものです。
ブッキングカーブは、このレベニューマネジメントを実践する上で、欠かせないツールです。具体的な予約動向で、客観的な需要予測を可能にし、担当者の経験や勘だけに頼らない、データに基づいた意思決定をサポートします。
ブッキングカーブを活用する3つのメリット
適正価格がわかる: 予約ペースを過去のデータと比較することで、現在の価格が「高すぎる」のか「安すぎる」のかを判断できます。
販売戦略のタイミングを逃さない: 予約の伸びが鈍い時期を特定し、そのタイミングで限定プランの販売やOTAでの露出強化といった効果的な施策を打てます。
収益予測の精度が上がる: 未来の予約状況を高精度で予測できるため、より正確な売上予測や人員配置計画を立てることが可能になります。
【Excelで簡単】ブッキングカーブの作り方 3ステップ
ブッキングカーブはExcelやスプレッドシートシートで作成できます。ここでは、具体的な手順を3つのステップで解説します。
ステップ1:必要な予約データを準備する
まず、予約システムやサイトコントローラーから、分析したい特定の日(例:来月のとある土曜日)の予約データをCSV形式などでダウンロードします。最低限、以下の2つの情報が必要です。
予約成立日
宿泊日
その他には、「プラン内容」「料金」「部屋タイプ」「総販売可能室数」などのデータを集めると、より詳しい分析ができます。
これらのデータから、各予約が「宿泊日の何日前に成立したか(=リードタイム)」を算出します。
ステップ2:Excelでデータを集計・加工する
ダウンロードしたデータをExcelで開き、リードタイムごとの予約数を集計します。
リードタイムの算出: 新しい列に「 = [宿泊日] – [予約成立日]」 という数式を入れるなどして、各予約のリードタイムを計算します。
予約数のカウント: COUNTIF関数などを用いて、リードタイムごと(例:7日前、6日前…1日前、当日)に何件の予約が入ったかを数え上げます。
累積予約数の計算: リードタイムの遠い日(例:7日前)から当日へ向かって、各日の予約数を足し上げていきます。これがブッキングカーブの元となるデータです。(表3参照)
(任意)稼働率の算出: 累積予約数を総販売可能室数で割ることで、各時点での稼働率を算出できます。
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ステップ3:グラフを作成し、可視化する
集計したデータをもとに、Excelのグラフ機能を使ってブッキングカーブを作成します。
データ範囲の選択: 横軸に「リードタイム」、縦軸に「累積予約数(または稼働率)」のデータ範囲を選択します。
グラフの挿入: 「挿入」タブから「グラフ」を選択し、「散布図(平滑線)」または「折れ線グラフ」を選びます。
グラフの調整: 横軸を「軸を反転する」オプションで右から左へ(当日が右端に来るように)設定すれば完成です。

作成したブッキングカーブの見方と分析のポイント
グラフが完成したら、次はその曲線を正しく読み解き、自施設の状況を分析するフェーズです。
理想的なブッキングカーブとは?「昨年対比」「目標」で比較する
作成した1本のカーブだけを見ても、それが「良い」のか「悪い」のかは判断できません。必ず比較対象となる線を重ねて分析します。
ただそ、一般的な理想形としては、宿泊日までの日数が減るにつれて、稼働率が滑らかに上昇し、最終的にほぼ100%に近い稼働率を達成する右肩上がりの曲線が挙げられます。
昨年同日のカーブ(実績): 最も基本的な比較対象。昨年に比べて今年の予約ペースは早いか、遅いかを確認します。
目標として設定したカーブ(予算): 自施設が目指すべき理想の予約ペース。目標に対して実績が上回っているか、下回っているかを判断します。
直近の同じ曜日のカーブ(傾向): 先週や先々月の同じ曜日と比較し、直近の予約トレンドを把握します。
これらの線を重ねることで、自施設のカーブが理想的な軌道を描いているかを客観的に評価できます。
【パターン別】ブッキングカーブから読み解く予約状況と課題
比較した結果、自施設のカーブがどのような形をしているかで、取るべき戦略は変わります。
立ち上がりが早いカーブ(実績が目標を上回る):
状況: 非常に好調なペースで予約が入っている状態。
考えられること: 現在の価格設定が安すぎる可能性があります。このままでは早い段階で満室になり、直前の高い料金で予約してくれるお客様を取り逃がす機会損失に繋がります。
アクション: 値上げを検討する。早期割引プランの販売を停止する。
立ち上がりが遅いカーブ(実績が目標を下回る):
状況: 予約のペースが鈍く、目標に達していない状態。
考えられること: 価格が高すぎる、販売チャネルが少ない、そもそも需要が低い日である、などの可能性があります。
アクション: 限定的な値下げや、ポイントアップなどの販促キャンペーンを検討する。OTAでの露出を強化する。
直前で急激に伸びるカーブ:
状況: 間際予約に依存している状態。
考えられること: 早期予約の魅力が足りないか、直前予約を狙う顧客層に強く支持されている可能性があります。
アクション: 収益の安定化のために、早期割引プランを導入して個人客の予約を促す。
注意!リードタイムの変化を見逃さない
ブッキングカーブを分析する際は、予約全体のリードタイム(予約が平均で何日前に行われるか)の変化にも注目しましょう。インバウンド客が増えればリードタイムは長くなる傾向にあり、国内のレジャー客が中心であれば短くなる傾向にあります。顧客層の変化が、カーブの形全体に影響を与えることを理解しておくことが重要です。
分析を利益に変える!ブッキングカーブの戦略的活用法
ブッキングカーブは、分析して終わりではありません。その示唆を具体的なアクションに繋げて初めて、施設の利益に貢献します。
予約ペースに合わせた価格設定(ダイナミックプライシング)
ブッキングカーブは、価格を動的に変更する「ダイナミックプライシング」の最も重要な判断材料です。
◯目標カーブを下回ったら→値下げや付加価値プランの提供
これを宿泊日ごとに、リードタイムの各時点できめ細かく繰り返すことで、収益の最大化を目指します。重要なのは、「値下げは最終手段」と考えること。まずはポイントアップや特典付きプランで需要を喚起できないか検討しましょう。
効果的な販売促進(プロモーション)のタイミング
ブッキングカーブを見れば、「どのタイミングで予約が伸び悩むか」がわかります。その時期を狙い撃ちして、効果的なプロモーションを仕掛けましょう。
例えば、「宿泊日の21日前あたりでいつも予約が停滞する」という傾向が見えれば、その数日前に「3週間前限定タイムセール」や「メルマガ会員限定クーポン」を配信するといった具体的な施策に繋げられます。
民泊や小規模ヴィラでの活用アイデア
客室数が少ない民泊や貸別荘では、1室の価格が収益全体に与える影響が非常に大きくなります。
週末や繁忙期に強気の価格設定: 1棟貸しなどの施設は、早い段階から予約が入る傾向があります。ブッキングカーブでそのペースを確認し、自信を持って高めの価格を設定しましょう。
清掃スケジュールの最適化: カーブから最終的な稼働率を予測し、清掃スタッフのシフトを無駄なく組む。
連泊割引の導入: 予約が鈍い平日を埋めるために、ブッキングカーブで予約が停滞する時期に合わせて効果的な連泊割引プランを投入します。
最低宿泊日数の設定: 予約が集中する繁忙期には、ブッキングカーブの好調さを見て最低宿泊日数を2泊や3泊に設定し、客単価の向上を図ります。
ブッキングカーブ分析でよくある失敗と対策
失敗例 | 対策 |
①キャンセル率を考慮していない | 過去のキャンセルデータを分析し、「予測キャンセル数」を差し引いた「正味の予約カーブ」で判断する。特に直前期のキャンセル率には注意が必要です。 |
②過去のデータに固執しすぎる | 昨年は近隣で大規模イベントがあった、など特殊要因を無視しないこと。常に最新の市場トレンドや競合の動きも加味して判断します。 |
③カーブの形だけを見て一喜一憂する | なぜそのカーブになったのか?(例:OTAのセールが始まった、インフルエンサーに紹介された)という要因分析を必ず行い、成功・失敗体験を次に活かします。 |
ブッキングカーブの精度をさらに高めるには?
予約システム(PMS)や専用ツールの活用が近道
Excelでの作成は手軽な一方、毎日手作業でデータを更新・集計するのは大変な手間がかかります。
最新の宿泊管理システム(PMS)やレベニューマネジメントツールには、ブッキングカーブを自動で作成・表示する機能が搭載されているものが多くあります。
これらのツールを導入することで、
日々の集計作業から解放される
キャンセル予測や競合施設の価格データも加味した高度な分析ができる
AIが最適な価格を提案してくれる
といったメリットがあり、より迅速で精度の高い意思決定が可能になります。
【まとめ】ブッキングカーブを使いこなし、施設の利益を最大化しよう
今回は、レベニューマネジメントの基本となる「ブッキングカーブ」について、その概要から具体的な作り方、そして戦略的な活用法までを解説しました。
ブッキングカーブは、あなたの施設の予約状況を映し出す「鏡」であり、未来の収益へと導く「羅針盤」です。まずはこの記事を参考に、自施設のデータを使って一本のカーブを描いてみてください。そこから見えてくるものは、きっとあなたの施設の経営をより良い方向へと導く、大きなヒントになるはずです。
勘と経験に、データの裏付けを。ブッキングカーブを武器に、施設の利益最大化を目指しましょう。